ずいぶん前に引退したフレが最近帰ってきた。
でも嬉しいとは思えなかった。
そのフレ、Sさんとはアズレアで初めて入ったギルドで知り合い、初めて会話らしい会話をした相手だ。
知り合ってからはほぼ毎日のようにチャットをし、日課も一緒にまわり、また同じ職業だったので色々と情報交換もした。難しいダンジョンを一緒に攻略したこともある。
特別なフレだった。Sさんが現役だった頃は。
今は違う。Sさんは復帰したとはいえチャットばかりで日課をしないし、毎日インするわけでもない。たまにインしては個チャで話をして、満足したら落ちていくといった状態だ。
Sさんが復帰しても嬉しいと思えない理由はここ、チャットの内容にある。Sさんが話すことと言ったらリアルの話か、現役時代の思い出話ばかりだ。
リアルの話は流せるからいいとして、思い出話は苦痛でしかない。
Sさんとよく遊んでいた「あの頃」。Sさんにとっては綺麗で大切な思い出かもしれないけど、私にとっては今振り返ってみるとアズレアをやっていて一番辛かった時期だ。どれくらい辛かったかというと引退を考えるくらい(ちなみに辛さの原因は彼ではない)。
だから思い出話をされても共感できない。むしろ嫌な気持ちになる。「あの頃」の記憶にはSさんと同時に辛さの原因である人たちが存在している。Sさんには悪いが、あまり思い出したくないことだった。
何より私はまだまだアズレアを楽しんでいる。思い出に浸っている暇はなかった。
おしゃべりが好きなSさんは私に「なんでも話して」と言う。でもいったい何を話せというのだろう。「狼が難しいんだ」とか「封印・挑戦楽しいよ」なんて言われてもSさんにはきっとわからない。彼は登竜門は蝶までしかクリアしておらず、挑戦は霊墟すらまだだ。
じゃあリアルの話? それこそSさんに話すことではない。話すとしたら聞いてほしい相手は今遊んでいるフレだ。日課をまわすついでに話す。リアルの話なんてそれくらいでいい。
一応、「ゲームの話がしたいな」とは言ってみた。Sさんは「自分はもうあまりやりこんでないから」とのことだった。
もしSさんが復帰するようなことがあったら、また一緒にダンジョン攻略したりして遊びたいなとは思っていた。でもSさんとはもう見ているものが違った。
かつては副業を極めていたSさん。今はその話すらしない。リアルの話か、思い出話ばかり。残念でしかない。