この作品のテーマは阪神・淡路大震災。
四つ目の話『絶唱』に書かれた「わたしは(僕は)あの時~、と自分のことを語りたがるのは、境界線のもっと外側にいた人たちばかりなのです」という言葉、この一言にちょっと刺された。
311のとき、わたしは被災地よりずーっと遠く離れた場所にいながら、連日テレビやネットで流れてくる情報を見ては、自分が巻き込まれたみたいに怖がっていた。
これからどうなるの? 自分なんかが平和に過ごしてていいの?
なんにも変わらない生活を送っていたのにね。
主人公はあの日、友人の大学のレポート作成を手伝っていて、地震が起きた直後にはレポートの提出がどうなるのかってことを心配していた。
震災に遭ったからって、真っ先に避難とか救助とかそういうことを考えるんじゃなくて、日常のことを考えている。衝撃だった。
イヤミス要素は控えめ。嫌な人はいるけど、南の島効果か『告白』『白ゆき姫殺人事件』『ポイズンドーター・ホーリーマザー』のようなエグさは感じない。イヤミス苦手な人でも読みやすいんじゃないかと思う。
南の島ってこんな感じなのかな、すごくのんびりした雰囲気を感じる。主人公たちは闇を抱えているはずなのに、南の島の雰囲気に流されて癒されていくよう。この独特の雰囲気がすごく好きだ。