白洲梓「暁の王女」の感想

「最後の王妃」の続編である今作。主人公・アイリーンは前作主人公・ルクレツィアとメルヴィンので、本来ならタイトル通り王女に当たるわけだけど養子に出されているから王女ではないというビミョーな立ち位置だった。

タイトル詐欺だし、王女なのか王女じゃないのかハッキリしないのでイマイチ共感しにくいし、養母がティアナだしで、嫌な予感がした。

 

違う物語を読んでいるような気がするくらいチグハグな主人公

共感しにくいところから始まったわけだけど、アイリーンが大聖女様(聖女=この小説における医者兼看護師のようなもの)と呼ばれ始めるあたりからは面白くなってきたと思った。

でも結局、彼女が何をしたかったのかわからない。

ジノリの人質となったアイリーンは、囚われの身でありながらジノリ大公に協力を仰いでまで聖女の仕事を全うする。その姿に感心したのも束の間、彼女は助けが来たからといって多くの患者を放って逃げ出したのだ。

別の自分になりたいと言っていたのに、何故別の自分になれそうなチャンスを手放すのか。

その後もヴェンツェルに恋い焦がれていたかと思いきやヴェンツェルを捨ててシオン(アイリーンを人質に差し出すような男)を選んだり、王女に返り咲いて嬉しそうだったりと、あらゆるシーンのアイリーンが別人に見えて本当に共感しづらかった。

 

何かがおかしい物語、すべてはティアナのためだった

一貫性のない主人公に激しい違和感を覚えながらなんとか読み進めたが、最後の最後に酷い展開が待っていた。

これはアイリーンの物語ではなくティアナのための物語だった。アイリーンはティアナを美化するための装置に過ぎないのだからチグハグに決まっている。違和感に納得がいった。

アイリーンだけでなく、ルクレツィアまでティアナのために動いてるよう。なんで軽率に他人に子供あげちゃうかな。そのせいでアイリーンとエマが普通の姉妹ならしなくてもいいような喧嘩しちゃってる。本作のルクレツィアと前作のルクレツィアを同一人物だと思いたくない。

紫の民ですらティアナのために用意されたと感じる。

作者にとっては凄く思い入れのあるキャラクターでも、私にとってティアナとはルクレツィアを理不尽に非難した嫌なキャラクターだ。そんなティアナのための物語を読んでいただなんて、流石にがっくりした。

 

最後に

悪いところばっかり目立つ今作だけど、ルクレツィアとメルヴィンの息子があの人の名前を譲り受けていたのは良かった。

あとこれは願望、ジノリ大公のイラストを見てみたかった。