綾崎隼「死にたがりの君に贈る物語」を読んでモヤモヤした感想

この先、重大なネタバレありのネガティブな感想です。ご注意ください。

 

ある日、大人気シリーズ小説『Swallowtail Waltz』の作者・ミマサカリオリがシリーズ完結を前に死去してしまう。

結末が知りたいコアなファンたちは作者が書こうとしていた結末を探るべく『Swallowtail Waltz』を模倣した生活を送ってみようと廃校に集合する。その数七名。

うち一名が実はミマサカリオリだった。生きていたのだ。訃報は誹謗中傷に耐えかねたミマサカリオリが執筆活動から逃げるために自らついた嘘だった。

 

で、このミマサカリオリこと佐藤はものすごく難しい性格をしているのである。とにかくまわりに噛みつく。人間不信だから。自分が大嫌いだから。

ファンに正体がバレてないのをいいことに(最終的にはバレるが)自著をこき下ろす。ゴミ呼ばわりする。自著だけでなくファンをもこき下ろし、ときには狂信者呼ばわり。

 

こんなことしてファンがいつまでもファンでいると思うな。

 

私なら作者がこんな人だと知ったらファンをやめる。いくら結末が気になる本でも作者がゴミ呼ばわりした本なんてソッコーで見限る。ゴミを読ませるなとも思う。

既刊も読まなくなる。こんなに作者の人間性を深く知ってしまったあとでは本を読んでいる間に作者のことが脳裏にチラついて物語に浸れない。

SNSでもよくある。好きな作家や漫画家の意外な本性を知って幻滅することが。ああいうのを現実で、対面でやられたらと思うとキツい。最悪大嫌いになる。

大嫌いとまではいかなくとも作者が情緒不安定な作品に執着する理由はない。そりゃあ一年くらいは引きずるけど、世の中には面白い話がいっぱい溢れてるから割と切り替えられる。

 

でもミマサカリオリファンは全員が続きを書いてくれるならとミマサカリオリを許す。六人もいて六人もがミマサカリオリを決して見捨てない。誹謗中傷に晒されて傷ついているからと優しく見守る者までいる。

いくらなんでも「作家」にとって都合が良すぎだ。読者が見た誹謗中傷って作者が見て感じたそれよりずーっとショボくて大したことないものなんだけど(否定的な感想が多い作品は肯定的な感想も多いのでファンなら主に後者に目を向けるはず。少なくとも誹謗中傷しか目に入らなくなるなんてことはない)、はたして罵詈雑言を浴びせられた上でそこまで作者のこと深く理解して見守ってあげられるんだろうか。「読者」の私はそれはないんじゃないかと思う。

そもそもにファンは作家のカウンセラーじゃない。編集さんはファンにカウンセラーの役目を宛がわないであげてほしい。病気療養中の人まで巻き込むのはあんまりだった。